目次
ビルメンテナンス業界の現状と今後
まずは、ビルメンテナンス業界の現状と今後の見通しについて解説します。
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コロナ禍の需要減少からの回復
2019年12月に中国で発生した新型コロナウイルスは、わずか数ヶ月でパンデミックと呼ばれる世界的な流行となりました。それにともない、飲食業やサービス業をはじめ、多くの産業が営業停止や倒産に追い込まれました。
景気変動の影響を受けにくいビルメンテナンス業界でさえも、今回の感染症拡大によって業務が減少したとされています。
全国ビルメンテナンス協会が公表している「ビルメンテナンス情報年鑑2021年(第51回実態調査報告書)」に記載された緊急調査の結果によると、会員企業のうち42.9%がこの度のパンデミックにおける最大の問題・課題が「仕事の減少・消失」であると答えています。
とはいえ、新型コロナウイルス感染症によって減少していた需要も、現在は回復傾向にあります。「ビルメンテナンス情報年鑑2024年(第54回実態調査報告書)」によると、回答企業(本社)におけるビルメンテナンス業務の平均売上高は次の通りです。
・2021年度:約15.8億円
・2022年度:約16.0億円
この結果からも、売上の増加は見て取れます。
出典:全国ビルメンテナンス協会「歴年の実態調査の概要」
新規需要の見込み
ビルメンテナンス業界は、ビルがある限り安定した需要があります。新型コロナウイルス感染症の影響を受けて一時はニーズが減少したものの、この世からビルがなくなることは考えにくいため、今後も安定性のある業界といえます。
また、ビルメンテナンスの対象となる建物は、オフィスビルだけではありません。デパートやホテルなどの施設も含まれます。全国の都市部においては、大型商業施設やオフィスビルの新設も進んでいるため、新規需要も見込まれています。
DX化にともなう業務内容の変化
ビルメンテナンス業界では、人手不足と人件費高騰の課題を解消する手段として、DX化が推進されています。
例えば、業務システムを取り入れることで、売り上げや契約の管理をスムーズにし、会計や人事の業務負担を軽減することが可能です。また、清掃ロボットを活用すれば、ビルの清掃業務に多くの人員を割く必要がなくなります。さらに、IoTセンサーを導入すれば、ビルの状態を常に監視できるため、異常やトラブルにも迅速に対応できます。
DX化が進むと、仕事が奪われる心配をする方もいますが、ビルメンテナンス業務では人の手を使った作業も必要です。仮に清掃ロボットを導入しても、すべての作業を機械に任せられるわけではありません。このことから、清掃ロボットはあくまでも業務をサポートするツールであり、人間の仕事がなくなることはないといえます。
とはいえ、ビルメンテナンス業界で長く安定して働くためには、自身の市場価値を高めることも重要です。下記のような国家資格は業界で重宝されているため、取得しておきましょう。
・第二種電気工事士
・第三種冷凍機械責任者
・危険物乙種第4類危険物取扱者
・二級ボイラー技士
環境経営に向けた取り組みの推進
また、ビルメンテナンス業界では「エコチューニング」と呼ばれる、環境問題に対する取り組みも推進されています。エコチューニングは、環境省が進める脱炭素事業です。脱炭素化社会の実現に向けて、建物の設備機器やシステムを適切に運用し、排出される温室効果ガスの削減を目指します。
エコチューニングの導入例は、「外調機の運転スケジュールを見直して運転時間を削減する」「商業施設の店舗内の空調を一部停止する」などです。ビルメンテナンス業界では、環境経営に向けて今後も業務内容が変化していくことが考えられます。
ビルメンテナンス業界の課題
現状を把握したところで、ここからはビルメンテナンス業界が抱えている課題を3つ紹介します。
深刻な人手不足
株式会社帝国データバンクが公表する「人手不足に対する企業の動向調査(2023 年 10月)」によると、正社員の人手不足に悩まされている上位10業種の中で、「メンテナンス・警備・検査」が4位とのことです。
なお、同調査による正社員の人手不足に悩まされている企業(メンテナンス・警備・検査)の割合は、2021年から2023年まで下記のように推移しています。
・2021年10月:55.5%
・2022年10月:62.4%
・2023年10月:68.4%
ビルメンテナンス業界が人手不足に陥っている原因のひとつは、作業員の高齢化です。「ビルメンテナンス情報年鑑2024(第53回実態調査結果)」によると、警備業務に従事している60歳以上の割合が「52.7%」、一般清掃業務で「46.7%」と、高い数値を示しています。
そのほか、間接業務や設備管理業務では40〜59歳の比率が高く、このことからも高齢化が進行していることは明らかです。
さらに、同調査では人手不足の問題に関して次のような悩みごとがあげられています。
・現場従業員が集まりにくい:90.4%
・現場従業員の若返りが図りにくい:74.7%
作業員の高齢化が進んでいる理由としては、若者がビルメンテナンス業に対して「賃金が低い」「キャリアアップが望めない」など、良いイメージをもっておらず、入職者が少ないことが考えられます。実際にビル施設管理の平均給与は442.1万円となっており、全職種の平均(460万円)と比べて低い水準です。
出典:
株式会社帝国データバンク「正社員の人手不足は 52.1% 「2024 年問題」の建設/物流業では既に約 7 割に」
全国ビルメンテナンス協会「歴年の実態調査の概要」
jobtag「ビル施設管理」
国税庁「令和5年分 民間給与実態統計調査」
経営コストの増大
近年、新型コロナウイルス感染症やウクライナ進行、円安などの影響によって、さまざまな業界で物価やエネルギー価格が高騰しています。ビルメンテナンス業も例外ではなく、電気代や備品代などのコストが増加し、経営がひっ迫しているのです。
また、従業員の賃金にともなう人件費の増大も、企業にとって深刻な悩みのひとつです。
「ビルメンテナンス情報年鑑2024(第54回実態調査結果)」によると、2009年度の常勤従業員(一般清掃)の平均月給は16万754円でしたが、2023年度は21万1,047円とのことです。そのほかの「業務内容別の平均賃金」をみても、常勤従業員とパートタイマーの平均賃金が年々上昇していることがわかります。
出典:全国ビルメンテナンス協会「歴年の実態調査の概要」
競争の激化
国内の既存ビルに対する競争も激化しています。ビルメンテナンス業界は安定した需要があるとはいえ、新設のオフィスビルや商業施設が大幅に増えているわけではありません。そのため、既存ビルのメンテナンスの受注においては提案型の競争入札が採用されるケースもあります。
また、経済不況の影響によってメンテナンスコストを下げたいと考えるビルオーナーも多く、価格交渉も難しくなっているのが現状です。
ビルメンテナンス業界の課題への解決策
ここでは、前述したビルメンテナンス業界の課題を解決する策を3つ紹介します。
外国人の雇用拡大
人手不足を解消するためには、外国人を積極的に雇用するのが有効です。現在は、生産性向上や国内人材の確保のために、政府が外国人労働者の就業促進に向けた取り組みを行っています。
2019年には入管法の改正によって、在留資格「特定技能」が創設されました。特定技能は、人材を確保することが困難な産業において、一定の専門性をもった外国人材を受け入れるための制度です。外国人材を受け入れるべき特定産業に、ビルクリーニングが含まれています。
出典:出入国在留管理庁「特定技能制度」
海外進出
国内でビルメンテナンスの受注が難しい場合には、海外に事業を展開するのもひとつの策です。アジア諸国やインドネシア、フィリピンなどの都市開発が進んでいる国で、日本の高品質な技術をアピールできれば、受注につながる機会を増やせます。また、海外であれば労働力を確保しやすいというメリットもあります。
高度なテクノロジーの導入
人手不足解消と業務効率化のためには、ロボットや業務支援ツールを導入してDX化を進めるのが得策です。ドローンによる高所の点検、警備ロボット、AIによる自動清掃など、予算も踏まえて長期的な視点で導入を検討してみてください。競合他社にはない技術を取り入れられれば、自社の大きな強みとなり、受注獲得にもつながります。
まとめ
ビルメンテナンス業界は、一時は新型コロナウイルス感染症の影響を受けて業務が減少・消失したものの、現在は安定した需要があります。今後も、オフィスビルや商業施設の新設などでニーズが増加する見込みです。
ただし、人手不足や経営コストの増大といった課題もあるため、ITツールの導入や外国人の雇用拡大など、対策が求められます。
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