建退共とは?労働者や企業にとってのメリット・デメリットを解説

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「建退共(建設業退職金共済制度)」は、建設業で働く方へ向けて、国が新しく策定した退職金制度です。事業主の場合、建設業を営む方であれば企業規模や所在地を問わず加入でき、従業員の場合は国籍や職種、給料を問わず加入できます。 本記事では、建退共の仕組みやメリット・デメリットについて、労働者と企業側の両方の視点から詳しく解説します。

建退共(建設業退職金共済制度)とは?

まずは、建退共がどのような制度なのか、その仕組みについて解説します。

建設業で働く人たちのための退職金制度

建退共とは、中小企業退職金共済法に基づき、国が創設した退職金制度です。建設事業者が「勤労者退職金共済機構」と共済契約を結び、労働者が働いた日数に応じた掛金を納付します。労働者が建設業から退職する際、機構から退職金が支払われる仕組みです。

一般的な退職金制度との違いは、会社ではなく業界を退職する際に退職金が発生することです。共済の掛金は特定の会社で働いた日数ではなく、建設業界で働いたすべての期間が対象です。労働者がいつ・どこで働いても、働いた日数分の掛金が通算されます。

建退共は、国内で建設業を営むすべての事業者が契約できます。勤めている会社が建退共と契約を結んでいれば、ほとんどの労働者が制度の対象です。また、一人の労働者として現場で作業することがあれば、一人親方も建退共に加入可能です。

建退共の掛金について

事業者が全額負担する建退共の掛金は、労働者一人につき1日あたり320円です(2023年5月現在)。基本的に1日8時間単位で計算され、有給休暇や事業主都合による休業でも同様です。また、深夜作業で翌日に4時間以上繰り込んだ際は、合計8時間に満たなくても1日として加算します。

労働者ごとに共済手帳が発行され、事業主は購入した共済証紙を雇用日数に応じて手帳に貼り付け、消印を押すことが積み立ての証明となります。

また、建退共の掛金は電子申請による積み立ても可能です。電子申請方式を利用する場合は、都道府県建退共支部に「電子申請方式申請書」を提出する必要があります。

建退共で退職金はいくらもらえる?

建退共に加入していると、退職金は掛金が納付された年数に応じて増えていきます。労働者が建設業界で働いた年数が長いほど、退職金が多く支払われる仕組みです。

建退共で退職金はいくらもらえるのか、以下の早見表で確認してみましょう。

※掛金320円で計算した場合(2023年5月現在)

掛金納付年数

退職金額

1年

24,192円

2年

161,280円

5年

414,087円

10年

893,559円

20年

1,933,479円

25年

2,474,439円

30年

3,038,919円

35年

3,641,031円

40年

4,268,007円

45年

4,913,127円

出典:「建設業退職金共済制度(建退共)の概要」(国土交通省)

労働者や企業にとっての建退共のメリット

ここでは、建退共に加入するメリットを労働者・企業の両方の視点から解説します。

【共通】簡単で透明性の高い退職金制度

建退共のメリットとして挙げられるのが、透明性の高い退職金制度であることです。

労働者に対する退職金の支払いは国の基準に則って行われ、機構から直接支払われます。建退共に加入できる企業は労働者にとっても魅力であり、人材確保の面で有利です。

また、企業側で複雑な手続きをする必要がないことも、メリットのひとつでしょう。

【労働者】転職後も掛金を引き継げる

建退共は、建設業界で働く労働者に対して退職金を支払う制度です。労働者は転職して雇用主が変わっても、同じ建設業界内で働き続ける限りは掛金を引き継ぐことが可能です。

転職先の企業が建退共に加入していることが前提条件ですが、転職しやすくなることは大きなメリットでしょう。退職金の失効や減額を心配することなく転職ができます。

【労働者】加入者還元サービスが受けられる

建退共に加入している労働者は、提携サービスの優待が受けられます。退職金が支払われるだけでなく、以下のようなサービスを割引料金で利用できるのはメリットのひとつでしょう。

・レンタカー:レンタカー代割引(詳しくはこちら

・ホテル、リゾート:宿泊料割引(詳しくはこちら

・アミューズメント:利用料割引(詳しくはこちら

・トラベル:国内・海外ツアー割引(詳しくはこちら

【企業】掛金は国からの補助・助成金を受けられる

建退共で企業が納付する掛金は、国からの補助・助成金を受けられます。補助・助成金は、労働者一人につき、掛金50日分に相当する16,000円です。

助成金を受けるための申請は特に必要なく、労働者の新規加入手続きをすることで自動的に50日分の掛金が免除となります。大きな金額ではないものの、企業にとってひとつのメリットとなり得るでしょう。

【企業】掛金は全額損金として扱われる

建退共で納付する掛金は、すべて損金として計上できます。また、個人事業主の場合でも必要経費として扱われるのが特徴です。企業にとって掛金が大きな負担とならず、節税効果を得られることは、建退共を導入するメリットといえるでしょう。

【企業】公共工事を受注しやすくなる

公共工事を行う企業も、建退共に加入することでメリットを得られます。

公共工事の入札に参加する際に必要な経営事項審査は、4つの項目が点数化される仕組みです。そのなかの「その他の項目」では、建退共を導入しているだけで21点の加点対象となります。ただし、機構と共済契約を結んでいるだけでは不十分なため注意が必要です。

労働者や企業にとっての建退共のデメリットや注意点

ここでは、建退共に加入するデメリットを労働者・企業の両方の視点から解説します。

【共通】加入対象者外となる場合がある

建退共に加入できる労働者は、建設業界で働く人のほとんどです。勤務形態・役職・職種・国籍を問わず加入可能で、現場事務所で働く事務員も対象労働者に該当します。

ただし、以下に該当する場合は加入対象外となります。

・事業主、役員報酬を受けている方

・本社勤務など、現場で働いていない方

・中退共(中小企業退職金共済制度)・清退共(清酒製造業退職金共済制度)・林退共(林業退職金共済制度)のいずれかに加入している方

誤って加入してしまった場合は、納付額の返金を求められるため注意しましょう。

【労働者】加入1年未満だと退職金は支払われない

建退共に加入していても、加入年数が1年未満だと退職金は支払われません。退職金を受け取るためには、12か月分以上の共済証紙が手帳に貼り付けられていることが条件です。建退共の共済証紙は21日を1か月分として計算するため、最低でも252日以上の共済証紙が必要です。

【労働者】死亡時の支給額が通常の退職金と変わらない

建退共に加入する労働者が死亡した場合、退職金は遺族に支給されます。建退共の加入年数が1年以上2年未満の場合、退職金額は掛金納付額の3〜5割程度となっています。ただし、加入者が死亡した場合は企業が納めた掛金に相当する額が支払われます。

これ以外は一般的な退職金の補償内容と変わらず、加入年数によっては死亡補償として十分な金額ではない可能性がある点に注意が必要です。

【企業】掛金の納付負担が継続的に発生する

建退共を導入すると、公共工事・民間工事を問わず、すべての工事で掛金の納付をしなければなりません。掛金の納付が発生しないのは、労働者の欠勤日もしくは休日のみです。掛金の納付が継続的に発生するため、経営状態によってはデメリットのほうが大きくなるでしょう。

【企業】減額や解約が難しい

建退共は厚生労働省が管轄する機構が運営しており、解約や減額に関する条件が厳しく設定されています。建退共の解約もしくは減額を希望する場合、まずは相当の理由を書面で申し出る必要があります。そのうえで、厚生労働大臣の認定を受けなければなりません。

まとめ

建退共は「建設業者に雇用されている」という条件に該当していれば、現場のガードマンや事務員でも被保険者になることができます。派遣社員は建退共の対象外ですが、派遣会社が中退共(中小企業退職金共済制度)に加入していれば退職金を受け取れます。退職後の生活資金を確保するためにも、退職金制度の理解を深めることが大切です。