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ICT施工とは?
ICT施工は、建設生産システム全体の生産性と安全性を向上させる取り組みとして、国土交通省が2016年に立ち上げた「i-Construction」の主要施策のひとつです。
具体的には、測量・設計・施工計画・施工・検査の各工程でICTを活用することで、職人による高度な技術の継承に加え、安全性と生産性の向上を実現するシステムです。
各段階における利用可能なICTは下記の通りです。
工程 | 利用可能なICT |
測量 | ドローン、地上レーザスキャナなど |
設計 | 3次元設計ソフトウェアなど |
施工 | ICT建設機械など |
施工管理 | ドローン、地上レーザスキャナなど |
納品 | 3次元計測機器など |
国土交通省の「ICT施工に関する状況報告」(2025年6月公表)によると、2024年度の直轄土木工事などで取り組んだICT施工の実施率は89%です。2016年は36%だったものが年々上昇を続けています。
2024年は過去最高の数字であり、都道府県・政令市におけるICT土工の公告件数・実施件数ともに増加しています。
建設業界におけるテクノロジーの進化は目覚ましいものであり、ICT施工もそのひとつです。 なお、i-Constructionでは、目指すべき建設現場の未来について下記のように掲げています。
・一人ひとりの生産性を向上させ、企業の経営環境を改善する
・建設現場に携わる人の賃金の水準の向上を図るなど、魅力ある建設現場をつくる ・建設現場での死亡事故をゼロにする
・「きつい、危険、きたない」から「給与、休暇、希望」を目指す
いち早く取り組むべき施策(トップランナー施策)としては、ICT施工のほか、「規格の標準化(コンクリート工)」や「施工時期の平準化」を掲げています。
ICT施工に取り組むメリット
次に、現場が得られるメリットについて、具体的に解説します。
施工効率が向上する
ICT施工を導入するメリットのひとつが、施工効率の向上です。例えば、これまで施工管理はオペレーターの目視による作業を行ってきました。ICT施工では、ドローンや地上レーザスキャナなどを利用した3次元データを作成できるため、施工時間の効率化を見込めます。
国土交通省の「ICT施工に関する状況報告」によると、ICT施工の対象となる起工測量から電子納品までの延べ作業時間について、土工・塗装工で約3割の縮減効果がみられています。
安全性が向上する
建設業で問題視されていることのひとつが、労働災害の発生率の高さです。近年、労働災害における死亡者数は減少傾向にありますが、2024年度における建設業の割合は31%と全業種のなかでもっとも多くなっています。
出典:厚生労働省「令和6年における労働災害発生状況(確定値)」(令和7年5月)
ICT施工を導入すれば、建設作業における作業員の安全性を確保できます。ICT建機は作業中に乗降する必要がなく、重機に関するアクシデントの発生率を減らせるでしょう。 国土交通省の調査によると、ICT施工技術の活用により建設機械との錯綜作業が66%減少したとの報告が得られています。
出典:国土交通省「ICTの活用により 建設機械との錯綜作業が約 66%減少し、安全性が向上!」
技術評価値が向上する
ICT施工を導入することで、工事の受注がしやすくなります。建設工事における落札方式には、工事の質や内容も評価対象となる「総合評価落札方式」があります。入札価格だけでなく、民間企業の優れた設計や技術力を活かせる落札方式です。
品質を高めるための新しい技術やノウハウなど、価格以外の項目が重視されるのが特徴です。ICT施工の活用は技術評価値の向上につながるため、受注率アップが期待できるでしょう。
ICT施工に取り組むデメリットとは
国土交通省が推し進めるICT施工はメリットばかりが着目されがちですが、当然ながらデメリットもあります。ICT施工に取り組む際に注意すべき課題について解説します。
初期投資のコストが高い
ICT施工の導入時には、ソフトウェア・測量機器・建設機械を新たに導入する必要があり、設備投資にコストがかかります。ICT建機などハードの設備はレンタルも可能ですが、従来機の費用と比べると高額で負担が大きくなるでしょう。
また、カーブが多く見通しの悪い現場では、配置する機材が多くなるため、その分必要コストが増えます。特に、小規模工事では、高額な初期投資に見合う効果がなかなか得られない点が指摘されています。
費用負担を考えると、小規模な現場では積極的なICT施工技術の活用が難しいのではないかという意見も。国は、ICT施工導入における費用負担の軽減について、具体的な対応策を検討している段階です。
ただし、ICT施工に必要な機材の購入については、各種補助金を利用できます。活用できる補助金の例は、下記の通りです。
対象機材 | 活用できる補助金 |
高性能グラフィックカード搭載PC | サービス等生産性向上IT導入支援事業(IT導入補助金) |
ICT建機 | 省エネルギー型建設機械導入補助事業 |
ドローン、レーザースキャナ | ものづくり・商業・サービス経営力向上支援事業 |
補助金を上手に活用すれば、費用対効果の向上が見込めるでしょう。
通信環境に左右されやすい
工事の進捗が通信環境に左右されやすいことも、ICT施工の課題としてあげられます。ICT施工で使用するツールは無線通信を必要とするものが多く、電波が入りづらい不安定な場所での作業は困難です。ICT施工技術が活用できなかったり、精度が落ちたりするリスクを伴います。
当然ですが、通信が途切れた場合は作業をストップせざるを得ません。現場で無線通信環境を構築する技術の開発も進められていますが、新たな設備コストがかかるでしょう。
新たな技術の習得が必要
建設現場でICT施工を導入する場合、新たな技術を習得する必要があります。ICT建機やソフトウェアの導入を進めても、それを扱える人材がいなければ意味がありません。人材不足が問題視されるなか、新たな人材を確保するのに苦慮する可能性が考えられます。人材育成に時間もお金もかけるのが難しい企業にとっては、大きな課題となるでしょう。
ICT施工を導入するステップ
ICT施工により生産性向上が期待できるものの、ICT化にはコストがかかる上、既存業務を変更し現場で受け入れてもらう必要があり、短期間での全面導入は困難です。
そこで国土交通省では、ICT施工の活用を3ステージに分け、身近な作業からの段階的な導入を推奨しています。
それぞれのステージでどのようなステップを取るのかを、具体例を交えて解説します(※)。
※詳細は国土交通省のページをご覧ください。
出典:国土交通省「小規模工事ICT施工活用の手引き(案)」
ステップ1|ICTで作業の効率化を目指す
まずは、作業や工事種別単位でICTを導入し、工程単体での効率化や生産性向上を目指します。
例えば、「トータルステーション(TS)」「データコレクタ」を用いて工事現場で基本設計データ(一部分も可)を作成すれば、効率的な出来形管理が可能になったり、「3次元設計+TS」を活用すると、従来の出来形計測に比べ作業の労力を軽減できたりします。
「3次元設計+TS」を用いた出来形計測においては、従来の検尺テープを用いるやり方では、計測人員に2~3名必要です。その上、作業員が正しい変化点に計測位置をあわせているかの確認が難しく、計測後は帳票に転記しなければならないないといった課題や手間があります。
TS出来形の場合、計測位置(変化点)を工事監理者本人が確認できるため、必要な人員は1~2名で済みます。さらに、データをソフトウェアに取り込み、帳票作成の自動化も可能です。
ステップ2|データ分析で工事全体の効率化を目指す
ステップ2は、ステップ1で取得したデータを活用し、工事全体でどれだけ効率化できているかを見える化し、作業効率をさらに高めるステージです。
例えば、下記のような効率化を目指します。
・構造物の施工や位置出しへの3次元設計データ活用
・ICT施工と従来施工の組み合わせ施工による作業削減、出来栄えや安全性向上
・建機の稼働状況からボトルネック作業を把握し、施工計画や人員配置を最適化
・施工データをもとにした検査や評価、現地立会いの削減
ステップ3|最適化された現場で施工の遠隔化・自動化を目指す
ステップ3は、施工計画時におけるAI活用やマシンコントロールによる自動施工化など、ステージ2のデータを活用して現場全体の最適化を目指す段階です。
例えば、マシンコントロールやマシンガイダンスを搭載したICT建機の導入による現場の自動化もこの段階で取り組みます。手持ちの小型建機に後付けできる簡易なマシンガイダンスシステムであれば、中小規模の工事にも導入しやすいでしょう。
さらに、小規模工事のうち、都市部工事・山間部工事・屋内工事など、GNSS衛星の受信状況が悪い現場でも、トータルステーション(TS)で測位するICT建機なら利用可能となったりと、選択肢が広がっています。
また、小規模土工における新たな出来形管理技術としては、LiDARなどのセンサーを搭載したモバイル端末とGNSSレシーバーを組み合わせた、3次元測量技術を活用した出来形管理手法も登場しています。
この手法は、3次元起工測量や電線共同溝工などの施工管理や、出来高計測の省力化、施工の進捗管理など、幅広い用途で活用が広がっています。
まとめ
ICT施工を導入することで、これまで手作業で行っていた作業を自動化できる場合があります。生産性・安全性・施工精度の向上など、さまざまなメリットを得られるでしょう。ICT施工は業界全体でニーズが高まっていくと考えられるため、技術者にとっては、技術を習得していれば好待遇で働けるかもしれません。
また、建設業界におけるICT施工に興味のある方には、共同エンジニアリングがおすすめです。施工管理やCADオペレーターをはじめ、建設現場へのICT導入をサポートするDX支援員の募集も行っております。経験者の方だけではなく、未経験の方も安心して業務に取り組めるようにサポート体制を整えておりますので、お気軽にご相談ください。