ICT施工の意味とは?導入するメリット・デメリットを解説

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近年、建設業界で重要なキーワードとなりつつあるのがICT施工です。作業の効率化や高精度化を図るための取り組みですが、具体的にどのようなことを行うのでしょうか。本記事では、ICT施工の意味やメリット・デメリットについて解説します。

ICT施工とは?

ICT施工は、建設生産システム全体の生産性と安全性を向上させる取り組みとして、国土交通省が2016年に立ち上げた「i-Construction」の主要施策のひとつです。

具体的には、測量・設計・施工計画・施工・検査の各工程でICTを活用することで、職人による高度な技術の継承に加え、安全性と生産性の向上を実現するシステムです。

各段階における利用可能なICTは以下のとおりです。

工程

利用可能なICT

測量

ドローン、地上レーザスキャナなど

設計

3次元設計ソフトウェアなど

施工

ICT建設機械など

施工管理

ドローン、地上レーザスキャナなど

納品

3次元計測機器など

国土交通省の「ICT施工の普及拡大に向けた取組」によると、2021年度の直轄土木工事などで取り組んだICT施工の実施率は84%です。2016年はたった36%で、2018年には半数以上の57%、2019年には79%でした。

2021年は過去最高の数字であり、都道府県・政令市におけるICT土工の公告件数・実施件数ともに増加しています。

建設業界におけるテクノロジーの進化は目覚ましいものであり、ICT施工もそのひとつです。

なお、i-Constructionでは、目指すべき建設現場の未来について以下のように掲げています。

・一人一人の生産性を向上させ、企業の経営環境を改善する

・建設現場に携わる人の賃金の水準の向上を図るなど、魅力ある建設現場をつくる

・建設現場での死亡事故ゼロにする

・「きつい、危険、きたない」から「給与、休暇、希望」を目指す

いち早く取り組むべき施策(トップランナー施策)としては、ICT施工のほか、「規格の標準化(コンクリート工)」や「施工時期の平準化」を掲げています。

ICT施工に取り組むメリット

次に、現場が得られるメリットについて、具体的に解説します。

施工効率が向上する

ICT施工を導入するメリットのひとつが、施工効率の向上です。たとえば、これまで施工管理はオペレーターの目視による作業を行ってきました。ICT施工では、ドローンや地上レーザスキャナなどを利用した3次元データを作成できるため、施工時間の効率化を見込めます。

国土交通省の「ICT施工の普及拡大に向けた取組」によると、ICT施工の対象となる起工測量から電子納品までの延べ作業時間について、土工・塗装工で約3割の縮減効果がみられています。

安全性が向上する

建設業で問題視されていることのひとつが、労働災害の発生率の高さです。近年、労働災害における死亡者数は減少傾向にありますが、2022年度における建設業の割合は36.3%と全業種のなかでもっとも多くなっています。

出典:「令和4年における労働災害発生状況について(確定)」(厚生労働省)

ICT施工を導入すれば、建設作業における作業員の安全性を確保できます。ICT建機は作業中に乗降する必要がなく、重機に関するアクシデントの発生率を減らせるでしょう。

国土交通省の調査によると、ICT施工技術の活用により建設機械との錯綜作業が66%減少したとの報告が得られています。

出典:「ICTの活用により 建設機械との錯綜作業が約 66%減少し、安全性が向上!」(国土交通省)

施工精度が向上する

ICT施工では、3次元データなどを活用して、正確な測位データを得られます。そのデータをICT建機に送信して自動で作業を進めていくことで、従来の手作業よりも効率的かつ高精度の施工が可能になります。

従来はオペレーターの力量や熟練度に左右される場合がほとんどでした。しかし、ICT建機は3次元データを基に自動制御が可能となるため、施工精度の向上が実現できます。

技術評価値が向上する

ICT施工を導入することで、工事の受注がしやすくなります。建設工事における落札方式には、工事の質や内容も評価対象となる「総合評価落札方式」があります。入札価格だけでなく、民間企業の優れた設計や技術力を活かせる落札方式です。

品質を高めるための新しい技術やノウハウなど、価格以外の項目が重視されるのが特徴です。ICT施工の活用は技術評価値の向上につながるため、受注率アップが期待できるしょう。

ICT施工に取り組むデメリットとは

国土交通省が推し進めるICT施工はメリットばかりが着目されがちですが、当然ながらデメリットもあります。ICT施工に取り組む際に注意すべき課題について解説します。

初期投資のコストが高い

ICT施工の導入時には、ソフトウェア・測量機器・建設機械を新たに導入する必要があり、設備投資にコストがかかります。ICT建機などハードの設備はレンタルも可能ですが、従来機の費用と比べると高額で負担が大きくなるでしょう。

また、カーブが多く見通しの悪い現場では、配置する機材が多くなるため、その分必要コストが増えます。特に、小規模工事では、高額な初期投資に見合う効果がなかなか得られない点が指摘されています。

費用負担を考えると、小規模な現場では積極的なICT施工技術の活用が難しいのではないかという意見も。国は、ICT施工導入における費用負担の軽減について、具体的な対応策を検討している段階です。

ただし、ICT施工に必要な機材の購入については、各種補助金を利用することが可能です。活用できる補助金の例は、以下のとおりです。

対象機材

活用できる補助金

高性能グラフィックカード搭載PC

サービス等生産性向上IT導入支援事業(IT導入補助金)

ICT建機

省エネルギー型建設機械導入補助事業

ドローン、レーザースキャナ

ものづくり・商業・サービス経営力向上支援事業

補助金を上手に活用すれば、費用対効果の向上が見込めるでしょう。

通信環境に左右されやすい

工事の進捗が通信環境に左右されやすいことも、ICT施工の課題として挙げられます。ICT施工で使用するツールは無線通信を必要とするものが多く、電波が入りづらい不安定な場所での作業は困難です。ICT施工技術が活用できなかったり、精度が落ちたりするリスクを伴います。

当然ですが、通信が途切れた場合は作業をストップせざるを得ません。現場で無線通信環境を構築する技術の開発も進められていますが、新たな設備コストがかかるでしょう。

新たな技術の習得が必要

建設現場でICT施工を導入する場合、新たな技術を習得する必要があります。ICT建機やソフトウェアの導入を進めても、それを扱える人材がいなければ意味がありません。人材不足が問題視されるなか、新たな人材を確保するのに苦慮する可能性が考えられます。人材育成に時間もお金もかけるのが難しい企業にとっては、大きな課題となるでしょう。

まとめ

ICT施工を導入することで、これまで手作業で行っていた作業を自動化することが可能です。生産性・安全性・施工精度の向上など、さまざまなメリットを得られるでしょう。ICT施工は業界全体でニーズが高まっていくと考えられるため、技術者にとっては、技術を習得していれば好待遇で働けるかもしれません。