建設業の職長とは
職長は、安全と作業品質・効率の向上を目指し、現場の労働者を直接指導・監督するリーダーです。労働安全衛生法上では、「職長その他作業中の労働者を直接指導又は監督するもの(作業主任者を除く)」を「職長等」と定義しています。
職長は、企業安全衛生の観点から事業者が選任します。建設業をはじめとした6業種では、新たに選任される職長に、安全衛生に関する教育が義務付けられています。また、5年ごともしくは大きな機械設備の変更にともなう再教育も求められています。
出典:厚生労働省「Q 建設業の職長・安全衛生責任者について教えてください。」
建設業の職長と安全衛生責任者の違い
職長とよく比較されることがあるのが安全衛生責任者です。 職長は現場内のリーダーであり、部下である作業員に対して指示や監督を行う人を指します。一方、安全衛生責任者は混在作業による労働災害を防止するために連絡や調整を行う人のことで、一定の要件を満たす作業現場において設置が義務付けられています。
元方事業者側(工事全体を発注・管理する事業者)は、現場全体の安全衛生の調整・指導や関係請負人側との調整を行う「統括安全衛生責任者」を選任します。一方、関係請負人側(元方事業者から工事の一部を請け負う事業者)は安全衛生責任者を選任し、統括安全衛生責任者との調整・連携を行います。
なお、建設業では職長が安全衛生責任者に選任されるケースが多くなっていますが、それぞれの役割は異なります。
出典:一般財団法人 中小建設業特別教育協会「職長・安全衛生責任者の役割と職務」
建設業の職長の仕事内容
職長は、事業者が任意に選任するものであり、職務内容や職務権限は各事業者によって異なります。ここでは、建設業の職長が一般的に行う仕事内容を紹介します。
作業手順の策定と作業員の配置・監督
安全・効率的に作業を行えるように、作業手順を設定します。そして、作業の条件や内容、作業員の能力や知識を考慮したうえで、適切な作業員の配置を行います。
作業指示も職長の重要な仕事です。作業員に作業開始を指示し、指示通りに進んでいるかを監督します。不安全な行動があった際には、是正指導を行います。工程が予定どおりに進むように進捗を管理することも重要です。
安全衛生対応と作業環境の改善
安全衛生対応は職長の重要な業務です。
作業現場の4S(整理・整頓・清掃・清潔)を徹底し、快適で安全な環境づくりに努めます。事故を防ぐために、機械や資材、作業方法の危険性・有害性を調査し、リスクアセスメントに基づいた改善措置や作業計画の立案も求められます。現場では、作業前のKY(危険予知)活動やヒヤリハットの共有などを行い、安全意識の向上を目指します。
また、作業環境や設備の定期点検を行い、異常があれば速やかに対応することも業務です。作業員の職業性疾病の予防や熱中症対策など健康面への配慮にも取り組みます。
作業員への教育と指導
作業員に対して、作業に必要な知識や技能を習得させることも職長の役割です。作業員のやる気を起こさせるように、教育や指導を行います。
また、作業品質の向上のためには、作業ルールの徹底や技術指導に取り組むことも大切です。特に新規の作業員や工程が加わる際は、職長が直接作業員に指導を行うこともあります。
異常時や災害時の対応
現場で異常や事故の兆候を早期に発見し、迅速に初期対応を行うことは職長の重要な任務です。災害が発生した場合は、まず状況を即座に判断し、人命救助を最優先とした初動対応を行います。そして関係各所への報告や避難指示を行い、二次災害の発生を防ぎます。
その後、事故原因の調査・報告・再発防止策の実施までが職長の責務です。
建設業の職長に求められるスキル
作業員の信頼を得ながら現場の指導・管理を行うには、幅広いスキルと高い適性が必要です。ここからは、建設業の職長に求められるスキルを紹介します。
安全に対する高い意識
職長のスキルとして最も重要なのは、「安全」に対する高い意識です。事故や災害を防ぐには、潜在的なリスクやささいな不備をいち早く察知し、事前に対策を講じる必要があります。
日頃から現場や作業員の状況を把握し、変化に気付けるだけの観察力が必要です。
迅速な判断力
職長には、迅速な判断力も欠かせません。
どれだけ適切にリスク管理を行っていても、事故や災害はいつ、どのような形で発生するかわかりません。現場で問題が起きた際には、被害の拡大を防ぐために素早く状況を見極め、的確な判断を下して行動に移す力が求められます。その場で責任を持って対応する力も、職長に必要な資質のひとつです。
改善提案力
職長には、現場で見つけた課題に対して柔軟に対応し、改善につなげる提案力が求められます。
安全性や生産性の向上には、作業のムリ・ムダ・ムラを見極め、改善を重ねていかなければなりません。日々の業務の中から改善点を抽出する観察力と、改善の提案力、実行に移す推進力が必要とされます。
コミュニケーション能力
職長にはコミュニケーション能力も必要です。
建設業では、作業員、監督、元請け、他業者との間の連携や調整が欠かせません。そのため、的確にものごとを伝える伝達力が求められます。
チームマネジメント力
職長には高いチームマネジメント力も必要です。
建設業では、複数の職種やスキルの異なる作業員が同じ現場で働きます。チームのパフォーマンスを最大化するには、作業員一人ひとりの特性や得意分野を理解したうえで、適切に作業を割り振る力が求められます。
また、マネジメントにおいては作業員との信頼関係を築くことも大切です。声かけや進捗の共有を通じてコミュニケーションの質を高めることで、作業員の安心感やモチベーションを引き出していく必要があります。
実務経験と作業知識
実際の作業を理解し、適切な指示を出すためには、十分な実務経験と専門知識が必要です。作業員からの信頼を得るにも、経験や知識は重要です。
IT・デジタル機器への理解
近年、建設現場でもIT化が進んでいます。管理・指導を行う職長には、デジタル機器を使いこなす能力も求められます。
建設業界のDX化については、以下の記事で解説しています。
「建設DXについてわかる!主な技術と推進のための取り組み」
建設業の職長になるには
職長になるために必要な資格や、年齢の制限はありません。ただし、建設業および製造系ほか6業種において新たに選任される職長に対しては、安全衛生法第60条により、12時間の職長教育の実施が義務付けられています。
なお、建設業では職長と安全衛生責任者が兼任になることが多いため、厚生労働省は「職長教育」と「安全衛生責任者教育」を統合した「職長・安全衛生責任者教育」の実施を推進しています。
日程は通常2日間(14時間)で実施されます。職務に就く前に受けるべき教育であるため、修了していることが資格のような役割を果たしています。
なお、未経験から始める施工管理のキャリアプランについては、以下の記事で解説しています。
「施工管理のキャリアプラン!役立つ資格やキャリアアップのポイントとは」
職長・安全衛生責任者教育の具体的な内容
職長・安全衛生教育の具体的な内容例と講習時間は、以下の通りです。学科講習のみで、試験や実技はありません。
作業方法の決定・労働者の配置(2時間)
効率的な作業のために必要な、現場に応じた適切な作業方法の決め方や作業員の配置方法を学びます。
労働者に対する指導・監督の方法(2.5時間)
安全衛生を確保しながら、作業員にどのように指示や教育を行うのか、接し方や関係の築き方などを具体的に学びます。
危険性や有害性などの調査およびその結果に基づき講ずる措置(4時間)
現場における危険性・有害性の調査方法や、設備・作業の点検・改善方法を学びます。
異常時における措置(1.5時間)
異常や災害発生時などの際に行うべき初動や救命措置などを学びます。
その他現場監督者として行うべき労働災害防止活動(2時間)
労働災害防止についての労働者の意識向上や、創意工夫を引き出す方法などを学びます。
安全衛生責任者に関する教育(2時間)
安全衛生責任者の職務と、統括安全衛生管理の進め方をそれぞれ1時間ずつ学びます。
まとめ
建設業の職長は、現場で作業員を直接指導・監督するポジションです。高度な判断力とマネジメント力を駆使して取り組む役職なので、経験を積めば施工管理や教育担当などキャリアの可能性も広がり、業界で長く活躍できるでしょう。
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