「密着型コミュニケーション」に重きをおくマネジメント手法を実践
──ご経歴と、共同エンジニアリングに入社された経緯を教えてください。
もともとは、「アニメに出てくるような巨大ロボを創りたい!」という少年のころの夢が高じて工学の道に進学しました。3つの会社でIT関連の業務を経験しましたが、どの仕事も、時間を忘れてしまうほどおもしろさに溢れており、良い経験を積ませていただきました。前職で自分のいた部署が他社に売却され、そのタイミングで希望退職。その後起業しましたが、ビジネスを身内に委ね、「社会貢献のために働きたい」とのかねてからの思いを募らせていました。元々工学系の資格や経験があったことから 電気工事士の勉強を始め、資格が取れそうになったところで共同エンジニアリングに応募しました。
すると面接で「障がい者雇用の事業に注力したいので、ぜひ」とお誘いを受けたのです。身近に障がいをもつ者がおり、休日に養護学校でボランティアをしていたという経歴が目に止まったようですね。担当の方の話から、共同エンジニアリングの障がい者雇用への姿勢に好感をもち、経験を活かしたいという思いで入社を決めました。
障がい者雇用促進法によって、企業は障がい者を雇用する義務があります。共同エンジニアリングでは、私が入社する前から、すでに障がい者の採用が進んでいました。面接時に、障がい者雇用の専任担当を新たにつくり、ひとつのプロジェクトとして強化していきたいという会社の意志を感じ、「自分が協力できるなら」と入社を決めました。
──現在はどのような業務をされていますか?
当社では農業を通じ、障がい者が自信ややりがいをもって社会に参画できることを目標としています。私のミッションは、障がい者社員の労務管理を行うサポーターのマネジメント業務になります。現場では、大小問わず、日々さまざまなことが起こります。たとえば、一時的な音信不通などの重大な事案も過去には起こっていました。こうしたトラブルはいつでも起こり得るので、現地のサポーターを始めとしたメンバーが一丸となって対応しています。マネジメントや教育、と言葉で簡単に言ってしまいがちですが、「働くとは」「教えるとは」「コミュニケーションとは」と、原点回帰して考え、答えを出していくことが求められています。日々そうしたマインドをサポーターと一緒につくりあげているのです。
──マネジメントにおいて、気を配られていることは何でしょうか?
時間をしっかりかけてでも、言葉を尽くして伝えることです。突き詰めて考え、言葉を紡げばきっと届くと信じています。ある年配のサポーターと激しく議論しあったこともありましたが、真っ向から意見をぶつけあったことで、お互い腹を割って話すことができました。年代に応じて伝え方を変える。そんな場面もありますが、真摯に向き合い、対話することが大切だと信じています。実際、現場にこまめに足を運び、サポーターや働いている障がい者とコミュニケーションをとることに力を注いでいます。
役員も巻き込み、将来につながる現場づくりを
─現在の「障がい者雇用」に、どのような課題があると思われますか?
携わっている社員のサポートやバックアップの制度が完全ではないことだと思っています。ですので、当社では「現場で困ったことはないか?」を常に問いつづけられる体制で運用しています。実際、農福ポートの職員の方々にも恵まれ、「送迎などこちらでできることがあれば、なんでも言ってください」と、積極的に協力してくださるのもありがたいですね。
──社内の意識や理解を高めるために、取り組まれていることはありますか?
とにかく、周りを巻き込むことです。一般社員はもちろんのこと、役員も機会があれば積極的に現地を訪れています 。障がい者と接することに慣れていない社員がほとんどですが、「仕事への取り組み方」「ひたむきに努力する姿」に良い影響を受けているようです。ポートから帰るとき、口には直接出さなくとも、仕事に対する考え方や熱意が刺激されていることが感じ取れます。こういった社員の姿を見ていると、会社全体として、義務ではなく使命感を持って事業を行っているんだと強く思います。
──会社としてチャレンジしたいことを教えてください。
障がい者社員の給与をアップすることです。将来的には、復職者や新入社員向けの研修の一環として、実際に同じ作業をする機会をつくったり 、農家様など関係する団体のご理解をいただいてオリジナルの商品で利益を出し、それを障がい者社員に還元したり。そんなことができる仕組みづくりに挑戦したいですね。
見極め力を磨き上げてたどり着いた「自立のための支援」という選択
──障がいをもつスタッフに対して、特別な福利厚生やサポート制度などはありますか?
障がい者社員と私は、役割は違えど同じく職責をまっとうする仲間です。寄り添うことは重要ですが、特別扱いする制度などは存在しません。私が社員に言っているのは「次につながるなら、当社を卒業して巣立ってもいい。スキルを磨いて新天地に旅立つなら応援する」ということです。「良くも悪くもお互いに影響し合う」のは、障がい者も健常者も同じです。だからこそ、一人ひとりに語りかけながら意識を高め合えるように努めています。
最初の頃は、「どんなことでも受け入れる」という気持ちでいました。しかし、この1年半を通じて肌で感じたのは、「過度な支援は自立の妨げになる可能性がある 」ということ。寄り添うだけでなく、本人の自立に向けた努力を促すことも必要なのです。もちろん、一人ひとりが胸に秘めた想いや考えに寄り添うことは、とても重要です。この1年半で、そうした経験もでき、自分自身がレベルアップできたと感じています。
──社会全体を俯瞰的にみて、率直に思うところを教えてください。
「共生社会」を具現化していくためには、上辺だけをとりつくろうのではなく本音で向き合う必要があります。個人的に感じるのは、超少子高齢化社会という大きな課題を抱える日本で、障がい者雇用は、その解決策のひとつになるかもしれないということです。企業の努力だけでは限界があります。国全体で本質的な知見を蓄え、そのような仕組みづくりがなされることを期待しています。当社ももっと精進し、その礎になれればと思っています。
──最後に、このインタビュー記事を読んでいらっしゃる方に一言アドバイスをお願いします。
これまでを振り返って思うのは、「チャンスの女神には前髪しかない」ということです。振り返ると「あれはチャンスだった」と感じることも、それを掴む時点では気付けないものです。どんなに経験を積んでもです。だから、「より多くの打席に立つ」ことが重要です。毎日の仕事は楽しいことばかりではありません。辛いことやしんどいこともあるでしょう。それでも現場で踏ん張ることで、巡ってくるチャンスがあるのです。自分が「これだ!」と選んだ仕事なら、つまらないと感じることがあっても、前のめりで取り組んでください。それが「チャンスの前髪」かもしれません。そしてその先には、必ずすばらしい未来があります。